パイロットウォッチといえばまず名前が上がる「IWC」。ROLEX(ロレックス)やOMEGA(オメガ)などに並ぶ高級時計のブランドであり幅広い年代で人気があります。
ポルトギーゼやポートフィノなど堅牢で視認性の高い実用的な機械式時計を多く展開しておりますが、IWCのブランドを詳しくは知らないという方も多いかもしれません。
今回は鑑定士がIWCの歴史やおすすめモデルについてご紹介をしていきたいと思います。
目次
IWCの歴史
始まりはスイスから

スイス北端、ドイツ国境沿いのライン川に面した古都で、シャフハウゼン州の州都”シャフハウゼン”。
轟々と水しぶきをあげながら、切り立つ岩を落下するラインの滝は世界的に有名です。そのラインの滝から数キロメートル上流にあるシャフハウゼンにIWCの時計工場があります。
IWCを立ち上げたのはエンジニアであり、時計師でもあったアメリカ人【フロレンタイン・アリオスト・ジョーンズ】です。
彼は弱冠 27歳にして、後にアメリカ有数の時計メーカーとなったボストンの E. ハワードウォッチ&クロック・カンパニーの副社長兼製造マネージャーに就任します。
その後、彼は1867年にパスポートを取得してヨーロッパに渡り、「アメリカ方式」の時計製造技術を使って、自分の時計製造会社を立ち上げる場所を探し始めます。
この時代アメリカでは広大な未開拓地が広がる「西」へ向かう動き(西部開拓)が加速していました。
「アメリカが大陸の西端まで勢力を広げることは神から与えられた使命である」という思想のもと、開拓が進められてきましたが、F.A.ジョーンズが目を付けたのは反対の方角でした。
アメリカから北東の方角にあるスイスが誇る優れた時計技術、米国の近代的なエンジニアリングの融合を目指したジョーンズは、スイスで創業をします。
アメリカから来た若い彼の思想は、スイスのジュネーブ周辺やフランス語圏に位置する渓谷地帯の職人達からすると懐疑的でしたが、アメリカ特有の開拓者精神と起業家精神のもと、 1868年に【インターナショナル・ウォッチ・カンパニー(International Watch Company)】を創立します。
彼の見立て通り、スイスが誇る優秀な時計師の技と、最新の製造技術、近隣にあるライン川の水力発電を利用し、最高品質のポケットウォッチ・ムーブメントの製作を可能にしたのです。
しかし、IWCの経営陣との軋轢に大きな不満を覚え、1876年にジョーンズが米国に帰国すると、シャフハウゼンの実業家であったラウシェンバッハ家(ヨハネス・ラウシェンバッハ・フォーゲル)が社を受け継ぎます。
会社を受け継いだ後もシャフハウゼンにいるIWCの時計職人と彼の親しい友人たちはジョーンズを高く評価し、彼のビジョンを尊重し続けました。
象徴的モデルの誕生

1930〜1940年代に入ると、現在の人気モデルのルーツが誕生し始めます。
1936年IWC初の航空専用腕時計「スペシャル・パイロット・ウォッチ(Ref.IW436)」が誕生します。
高精度、高耐磁性、視認性の高い大きな夜光針とアラビア数字を特徴とし、民間および軍用航空黎明期にプロパイロットの相棒として開発されました。
コックピット内の強い磁場からムーブメントを守る軟鉄製インナーケースを採用し、12時位置に特徴的な三角マーク(アローマーク)がデザインされている特徴も持っています。
後の「マーク11」(1948年)へと繋がり、現代の「パイロット・ウォッチ・マーク XX」などの現行シリーズへと伝統が受け継がれました。
Ref.IW436が誕生した数年後、ポルトガル商人の依頼により、高精度な懐中時計用ムーブメントを搭載した大型腕時計「ポルトギーゼ」が誕生します。
IWCを代表するアイコニックなウォッチコレクションでもある「ポルトギーゼ」は「航海用計器(マリンクロノメーター)」に匹敵する精度を腕時計で実現するという、当時の常識を覆すコンセプトから生まれました。
当時の主流であった約33mmを大きく上回る41.5mm前後というサイズで誕生しました。現代のトレンドでもある「デカ厚時計」ブームの先駆けとも言われています。
ポルトギーゼの魅力は時計の大きさだけではありません、スリムなリーフ針(木の葉のように中央が膨らみ、先端が尖った曲線的な形)、アプライド(立体)のアラビア数字、線路のような「レイルウェイ」分目盛りなど美しく洗練されたデザインになります。
また装飾を抑えたシンプルなダイヤルは、船の上などの揺れる船上でも一目で時刻を確認できるように設計された名残です。
現在は、その上品なルックスから「最高のドレスウォッチ」としても高く評価されています。
実用性と技術革新
クオーツショックの到来

現在では日用品の一つでもある腕時計ですが、実は1900年代に入るまで時計は高級品の一つだったのです。しかし、この常識を覆したのが日本国内ブランドの中でも一番の知名度と人気がある【SEIKO(セイコー)】でした。
1969年、セイコーは世界初のクオーツ式腕時計「アストロン」を発売しました。伝統的な機械式時計が主流だった時代に、圧倒的な高精度と安価な大量生産を可能にしたクオーツ時計の登場は、スイスの時計産業を壊滅寸前にまで追い込みました。
時計業界の歴史的な大変革とも言われ、現代でもクオーツショックという名前で歴史に残っています。
日差(1日のズレ)数秒〜数十秒が当たり前だった機械式に対し、クオーツ式は「月差(1ヶ月のズレ)」数秒という驚異的な精度を実現したクォーツ時計は、大量生産も出来る事からそれまで高級品だった腕時計が誰もが手にできる「日用品」へと変わりました。
多くの時計ブランドがクオーツ時計に大きな大打撃を受ける中、IWCはスイス共通クォーツ「ベータ21」を搭載した「ダ・ヴィンチ」を発表します。
「ベータ21(Beta 21)」とは、1960年代後半にスイスの時計メーカー連合(CEH)が共同開発した、スイス初の量産型クォーツ・ムーブメントのことです。
IWCはこの開発プロジェクトに深く関わっており、他にもロレックス、オメガ、パテック・フィリップ、そしてIWCを含む約20のスイスブランドが日本勢によるクォーツ開発に対抗するため協力して作り上げました。
初代のダ・ヴィンチはムーブメントの大きさを活かした、エッジの効いた六角形のケースと一体型ブレスレットという、当時の最先端かつ大胆なスタイルで登場しました。
製造数はわずか数百本程度とされており、現在はヴィンテージ市場で非常に高い価値を持つコレクターズアイテムとなっています。
1985年になると複雑時計の神様の一人と称される人物【クルト・クラウス】により、西暦2499年まで調整不要な永久カレンダー搭載の「ダ・ヴィンチ」が完成しました。
ラグジュアリーブランドへの進化

2000年に入るとIWCはリシュモングループ傘下へ入ります。
傘下に入った主な経緯と理由は、当時の親会社であったドイツの計測機器メーカーVDO(マネスマン傘下)が、ボーダフォンによる巨額の買収劇に巻き込まれ、時計部門を切り離す必要に迫られたためです。
リシュモン傘下となってからは、2002年に就任したジョージ・カーンCEOのもとで、様々な変化が起こります。
まず、以前まではインターナショナル・ウォッチ・カンパニー(International Watch Company)のロゴから頭文字3つをとった”IWC”へと変化し筆記体からブロック体へ代わりました。
さらに、コレクションの再編、ブティックのグローバル展開が加速し、現在の地位を確立しました。
IWCは今まで、ドイツ語圏を中心とした実力派の「ニッチなブランド」という立ち位置でしたが、傘下に入ったことで世界的なラグジュアリーブランドへ成長しました。
現在では、各コレクションを数年おきに刷新し、2023年にはジェンタ・デザインの「インヂュニア」が現代的に復活するなど、様々な革新が行われています。
IWCの発明
時計業界に与えた発明

IWCは、伝統的な時計製造にエンジニアリングの視点を取り入れた独自の技術を数多く生み出してきました。
特に以下の3つの発明・革新は、時計史においても重要な転換点とされています。
【ペラトン式自動巻き機構】
1950年、当時の技術責任者アルバート・ペラトンが開発した、IWCを象徴する独自の双方向自動巻き上げシステムです。
ローターのわずかな動きを効率よく主ゼンマイの巻き上げに変換する「爪」を用いた機構で、衝撃に強く、巻き上げ効率が極めて高いため、現代の自社製ムーブメントにも改良を重ねながら継承されています。
【チタンとセラタニウム】
IWCは素材工学のパイオニアとしても知られています。
1980年、IWCは世界で初めてのチタン製腕時計を開発します。
加工が困難だったチタンを世界で初めてケース素材に採用し、軽量で金属アレルギーの少ない時計を実現しました。
さらに、IWCはセラミックとチタニウムの長所を一つに融合させた素材”セラタニウム”を開発します。
チタンの軽量さと堅牢性に、セラミックの耐傷性と美しさを融合させた独自の合金で、表面を焼成することでセラミック化させており、剥がれる心配のないマットブラックの質感が特徴です。
現在でもIWCの様々なコレクションに使用されている素材でもあり、これまでのセラミックでは加工が難しかったリューズやプッシュボタン、バックルといった小さなパーツまで、マットブラックの質感で統一することが可能になりました。
【永久カレンダー 】
1985年、天才時計師クルト・クラウスが開発した、機械式時計の常識を覆す「リューズ1本で全ての操作が可能」な永久カレンダーです。
それまでの永久カレンダーはケース側面のボタンを突いて調整する必要がありましたが、IWCはカレンダーの各パーツを完全に連動させることで、リューズ操作のみで日付・曜日・月・年(4桁表示)・ムーンフェイズを同時に更新可能にしました。
最新の「ポルトギーゼ・エターナル・カレンダー」では、理論上4500万年以上も正確にムーンフェイズを表示し続ける驚異的な精度を実現しています。
まとめ
今回はIWCについてご紹介しました。余計な装飾を排した、高い視認性と機能美が特徴のIWCは現代でもパイロットや技術者などに選ばれることの多いブランドになります。またIWCは「一度製造した時計は、創業まで遡っていつでも修理する」という姿勢を貫いており、150年以上前の時計でもメンテナンスが可能です。
買取おりづるではIWCの買取を強化中です。人気の「ポルトギーゼ」や質実剛健な「パイロット・ウォッチ」など、どんなコレクションでもお任せください。腕時計以外にもIWCは懐中時計も人気なブランドでもあります。
使わないまま保管しているIWCのモデルはぜひ当店にご相談ください。みなさんのご来店を心からお待ちしております。















